狩猟とは(第十話)

猟師外伝

元気付けに握った肩の 思いも掛けないか細さに 内心慌てうろたえてしまったが 何とか心中悟られる

事無く 平静を装った! この地の主として 有り余る自然と共に生きてきた 強靭な身体にも此処数年

病に蝕まれ続け 何時の間にか何と弱々しくなってしまったのか。

思うに任せぬ左腕を抱え 精一杯返して来た男の笑顔に 何も言葉が無くなってしまった 其の時が

彼との 今生の別れとなるとは 気付く事も無かった。


お互いの存在を知りながら 見えない影に戸惑う事で 憶測し憤慨したりしていた頃 何かおかしくは

ないのか 其れまでの経緯を捨てる事が出来た時 私は動いた! 突然押し掛け 名乗った私を

戸惑いを浮かべながらも 自宅に促す後姿   無難な世間話の後話を続けた  「大きな流れで

この世界に生きる我々は 仲間兄弟と考えている もっと広い視野で見渡せる 身では有りたい。」

帰路車中にて 其れまでの重なり沈殿していたこだわりが 少しづつでは有るが 消えていく

事を感じ出していた しかし手のひらを返したような べた付いた付き合いは 嫌い望まなかった

計算高い行動を 恥と感じていた 私のちっぽけなプライドが そうさせていた。

何時か彼が 病に冒され 其の深刻さを知り 些細な事は もうどうでも良く成り出していた こよなく

身の回りの自然を愛し 駆け抜けていった彼に何か出来ない物だろうか? 手を差し伸べたつもりが

何時しか 多くを教えられている事に気付いた  私も幾多の先人の様に 自身の生き様を 伝え残す

事が 出来るのだろうか 今は自信も無く 其の覚悟さえ見当たらない。

・・・・・ 猟友O氏 平成15年1月19日 永眠  享年66歳 ・・・・・

今は ただ彼が安らかな眠りへとつく事のみ 祈りたい。                                                




                             
                               OOZEKI